電子スピン共鳴装置(ESR1)

ESR1

装置概要

1.ESRの原理

ESRとは電子スピン共鳴(Elecrton Spin Resonance)の略です。

常磁性物質または不対電子を持ったラジカルは原子内の電子数が奇数個ととなるため、電子スピンが存在します。電子スピンを含む試料に強い磁場を与えると、磁場方向にスピンが向きを変えます。(ゼーマン分裂)一部のスピンは、磁場に平行(Eα=-1/2gβH0)に、一部のスピンは磁場と逆平行(Eα=+1/2gβH0)になります。前者のスピンの方が安定で、確率的に若干多く存在します。前者と後者のスピンのエネルギー差(△E=gβH0)は磁場の強さ(H0)により変化しますが、マイクロ波のエネルギーのオーダーです。したがって、前者から後者のスピンに向きを変えるのに必要なエネルギーを(マイクロ波を)試料に照射すると、共鳴がおこり、入射したマイクロ波が吸収されます。共鳴が起こる磁場H0で吸収が起こり、マイクロ波の強度は極小値を持ちます。ESRの信号はマイクロ波の強度の磁場に関する微分値として得られ、ESRシグナルとなります。
吸収が起こるときの、周波数、磁場の強さを測定すると、電子スピンの状態(不対電子の状態)がわかります。また吸収の度合いを測定すると、電子スピンの濃度が求められます。

2.ESRから何がわかるか。不対電子の有無およびそれらの定量

(たとえば、光化学反応、電気化学反応などにより生じる励起原子、ラジカルなどの同定ができます。最近では、酸化チタン光触媒、電池材料、光分解ポリマーラジカル、生体内活性酸素ラジカルなどについて注目されています。)
測定例の一つが酸化バナジウム薄膜のESRスペクトルです。酸化バナジウムは処理条件で種々のバナジウムが生成されることが知られています。ESRでは不対電子を持った4価のバナジウム(V4+)が観測できます。酸化バナジウム薄膜を熱処理しますと、処理温度が上昇するにつれてシグナル強度が減少し、V4+がESRで観測されないV5+へ変化していることがわかります。バナジウム酸化物の触媒、電気的物性はバナジウムの価数により大きく変化することが知られており、ESRはそれを容易に観測することができます。

装置仕様

励磁電源 電磁石用安定化電源、3相200V 20KVA 水冷
電磁石 磁極径 300mm、間隙 76mm、磁場 50mT~1400mTまで
空洞共振器 検波方式、ホモダインクリスタル検波
マイクロ波ユニット 基準周波数 8.8MHz~9.6MHz(X バンド)、測定感度7×109スピン/0.1mT、マイクロ波発信源 ガンダイオード発信器、マイクロ波出力 0.1mW~200mW、検波方式 反射バランス形クリスタル検波
分光計 タッチスクリーン型プラズマディスプレ-にてESRを制御
コンピュータ ESRおよび温度制御、データ処理用(HP-UNIX機)

このほかに以下のアタッチメントが用意されています。

温度可変装置(ES-DVT3) -170~200℃まで試料温度を変化させて測定できます。
紫外線照射装置(ES-UXL10) 光照射によるラジカル生成に関する情報を得ることができます。キセノンランプ 最大1000W。
デジタルマーカ(ES-DM1) ESRマーカ、g値の決定に使用します。
磁場測定器(ES-FC5) 磁場の高精度測定とg値の精密化に使用します。

上記の装置により、光照射測定、温度変化測定などの多様な測定を行うことが出来ます。

その他

1.測定試料について

通常は固体試料を5f石英ガラス管に入れて測定します。液体試料(水溶液)の場合は、誘電損失が大きく、感度が低いので、細かい試料管(溶液セル)を用いて測定いたします。もし必要であれば、購入方法などを管理者に問い合わせて下さい。

実際の測定対象としては

その他、多岐の応用分野の研究にESRが利用可能です。

2.使用上の注意
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